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東京地方裁判所 平成元年(特わ)318号 判決

国籍

韓国

住居

東京都新宿区歌舞伎町二丁目三〇番三号

旅館経営

武田勝政こと

姜昌淑

一九二七年二月一一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官渡辺咲子出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金四五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都新宿区歌舞伎町二丁目三〇番三号において「ホテルT」の名称で同伴旅館を営んでいるものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外する等の方法により、所得を秘匿したうえ、

第一  昭和六〇年分の実際総所得金額が九五八八万八四六三円であった(別紙一の1修正損益計算書参照)のにかかわらず、同六一年三月一一日、同区北新宿一丁目一九番三号所在の所轄淀橋税務署(同六二年七月一日名称の変更により新宿税務署)において、同税務署長に対し、同六〇年分の総所得金額の損失の金額が一六五万五九五六円、分離課税による短期譲渡所得金額が一六三万八〇〇〇円で納付すべき所得税額はない旨の虚偽の所得税確定申告書(平成元年押第四二五号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額五四九一万一七〇〇円(別紙一の2脱税額計算書参照)を免れ

第二  昭和六一年分の実際総所得金額が一億五六〇万四一四五円であった(別紙二の1修正損益計算書参照)のにかかわらず、同六二年三月一六日までに、前記淀橋税務署において、同税務署長に対し、同六一年分の総所得金額が四四八万四九二〇円で、これに対する所得税額が六二万二二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額六一六四万四三〇〇円と右申告税額との差額六一〇二万二一〇〇円(別紙二の2脱税額計算書参照)を免れ

第三  昭和六二年分の実際総所得金額が一億一〇〇万三九二九円であった(別紙三の1修正損益計算書参照)のにかかわらず、同六三年三月一五日、前記新宿税務署において、同税務署長に対し、同六二年分の総所得金額が三二三万三四五六円で、これに対する所得税額が三三万一一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額五三二六万六七〇〇円と右申告税額との差額五二九三万五六〇〇円(別紙三の2脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書三通

一  服部サチ子の検察官に対する供述調書

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  売上金額調査書

2  仕入金額調査書

3  給料賃金調査書

4  修繕費調査書

5  消耗品費調査書

6  交際費調査書

7  手数料調査書

一  収税官吏作成の領置てん末書

一  検察事務官作成の電話聴取書

判示第一及び第二の各事実につき

一  収税官吏作成の衛生費調査書

判示第一の事実につき

一  収税官吏作成の次の調査書

1  減価償却費調査書

2  損害保険料調査書

3  損益通算となる事業所得調査書

4  申告欠損金調査書

5  譲渡収入調査書

6  必要経費調査書

7  損益通算となる譲渡所得調査書

一  押収してある六〇年分の所得税確定申告書一袋(平成元年押第四二五号の1)、同昭和六〇年分収支内訳書一袋(同押号の4)

判示第二の事実につき

一  収税官吏作成の査察官報告書

一  押収してある六一年分の所得税確定申告書一袋(同押号の2)、同昭和六一年分の収支内訳書一袋(同押号の5)

判示第三の事実につき

一  収税官吏作成の広告宣伝費調査書

一  押収してある六二年分の所得税確定申告書一袋(同押号の3)、同昭和六二年分収支内訳書一袋(同押号の6)

(法令の適用)

一  罰条

判示各所為につき、いずれも所得税法二三八条一、二項

一  刑種の選択

いずれも懲役刑と罰金刑の併科

一  併合罪の処理

刑法四五条前段、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第二の罪の刑に加重)、罰金刑につき同法四八条二項

一  労役場留置

刑法一八条

一  懲役刑の執行猶予

刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、旅館業を営む被告人が、昭和六〇年分から三年分にわたり、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿して、虚偽過少申告のうえ、三年分合計一億六八〇〇万円余の所得税をほ脱した事案である。そのほ脱税額は高額であり、ほ脱率は通算して九九・四パーセントと高率であること、犯行の動機に特段同情の余地はないこと、所得秘匿の手段、方法も売上の明細を自動的に記録したコンピューターの売上レジペーパーを一部除外したうえ、これに見合う経費の領収証も破棄するなど計画的であること等の事情を考慮すると、犯情は悪質であり、被告人の刑責を軽く評価することはできない。しかし、被告人は、本件が発覚してからはほ脱の事実を認め、修正申告を行った上、本税、附帯税を完納して反省の意を表明していること、被告人には売春防止法違反等の罪による罰金刑の前科はあるが、懲役刑の前科はなく、また、同種事犯の前科もないことなど被告人に有利な事情も認められ、被告人の年齢、家庭の事情等をも併せ考えると、被告人に対しては、今回に限り懲役刑の執行を猶予するのが相当であると判断し、主文のとおりの刑を量定した次第である。

(求刑 懲役一年六月及び罰金五〇〇〇万円)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 稲田輝明)

別紙一の1

修正損益計算書

武田勝政こと姜昌淑

自 昭和60年1月1日

至 昭和60年12月31日

〈省略〉

別紙一の2

脱税額計算書

昭和60年分

〈省略〉

別紙二の1

修正損益計算書

武田勝政こと姜昌淑

自 昭和61年1月1日

至 昭和61年12月31日

〈省略〉

別紙二の2

脱税額計算書

昭和61年分

〈省略〉

別紙三の1

修正損益計算書

武田勝政こと姜昌淑

自 昭和62年1月1日

至 昭和62年12月31日

〈省略〉

別紙三の2

脱税額計算書

昭和62年分

〈省略〉

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